apriori_37g

言葉が好き

正十二面体の女

今日も風呂にアヒルを浮かべて、あの女のことを思う。なんと正十二面体の女。
あの女は、裏表のない女だった。裏表なんかじゃ済まされない女だった。裏表という二次元的で、規定も曖昧な存在では無かった。

正十二面体(せいじゅうにめんたい、英:regular dodecahedron)は立体の名称の1つ。空間を正五角形12枚で囲んだ凸多面体。
種別:正多面体、十二面体
面形状:12枚の正五角形
辺数:30
頂点数:20
頂点形状:53
シュレーフリ記号:{5, 3}
ワイソフ記号:3 | 2 5
対称群:Ih
双対多面体:正二十面体
特性:凸集合

(Wikipedia 正十二面体)
あの女は、十二面もあるに加え、精密な正五角形で作られた。作られたと言うよりは、「形容されていった」と現すのが適当であろう。生まれた時から正十二面体なのではない。彼女の人生、環境、価値観、焦燥が、姿を正十二面体にさせたのだ。
確かに、彼女はコロコロと変わる訳では無かった。正十二面体を卓上で転がすことはできなかった。ケラケラと笑ったりメソメソと泣くことはあったが、「喜怒哀楽を表す"面"がそれぞれ違った」と言うのが妥当であろうか。
喜ぶと言っても、十二の喜び方を持つ女であった。しかも正五角形の。
彼女は怖くなど無かった。十二面もある不可解さはあれど、正しい五角形で作られた誠実さは、私を安心させた。
純粋的な彼女を見ようとするも、それは正十二面体。この面はどの面なのかわからない。その十二面に数字を付けて判別することもできない。彼女自身もまた、自分が今どの面を生きているのか解していないから。
人間は、創造の時を回ってゆくうちに、段々と球体になる。最初は歪な図形でも、傷つき、生み出すことが、人を丸く形作らせる。しかし彼女はどうだ。いずれ球体になることは共通事項であれど、正十二面体を過程しているのだ。彼女は正しく球体になる。正しく傷つき、正しく生み出す。
彼女を展開したら如何なるか。彼女の体積は如何なるか。彼女の表面積は如何なるか。
全て彼女をバラバラにしないと分からない。
あゝ、正十二面体が歩道橋を渡っている。砂浜に文字を描いている。沈む夕陽に感化されている。その姿は総て正十二面体。
私が恋する女は、正十二面体。
「人はいつか死ぬ、だからなんなの?それでも貴方は、今も生きていることに変わりはない。」